日産車体発祥の地、神奈川県平塚市「湘南」に、70年にわたり稼働し続ける湘南工場は、車体、塗装、組立の生産工程とそれらを支える生産技術部門、そして本社機能を兼ね備えています。「NV200バネット」や「AD」、小型トラックの「パトロールピックアップ」など、日産ブランドのLCV(小型商用車)の生産を、高効率な“多車種混流生産体制”で支えています。
枠組みとボディーが一体で構成されるモノコック車(乗用車や商用車)と、頑丈な枠の上にボディを載せて組付けるフレーム車(SUV、トラックなど)。構造が大きく異なるため困難とされている、この二つの車種の混流を実現させ、質の高いクルマをコンパクトなラインで生産しています。
湘南工場の最大の特長である多車種混流生産をさらに進化させ、効率化による高い競争力の獲得を目指し、第2地区への機能集約を進め、2012年12月に再編を完了しています。2交替体制では年間15万台の生産能力がある工場です。
2010年1月に本格稼働した日産車体九州の工場は、年間約12万台の生産能力を持つ、日産グループの「モノづくりのベストプラクティス」のすべてを織り込んだ工場です。目覚しい発展を続けるアジア地域との物流メリットが大きい北九州地区に立地し、国内向けのミニバン「エルグランド」や日産のラグジュアリーブランドのINFINITI「QX80」などを生産しています。
日産車体九州工場では、湘南工場における長年のクルマづくりのノウハウを基盤に、最新の技術を取り込んでいます。たとえば、従来のプレスによる成型に比べ高精度・高品質で美しい仕上がりを生み出すローラーヘミングラインの導入などが挙げられます。主な施設としては、ローラーへミングの導入、AGVを活用したフレキシブルラインが特徴の車体館、新開発の塗装技術「3WET塗装」の導入により高品質と環境性能を実現させた塗装館、湘南工場のノウハウを受け継いだフレーム車とモノコック車の混流ラインをさらに進化させ、生産車すべての四輪加振検査を行うなど徹底した品質管理を特徴とする組立館などがあります。
AGV:Auto Guided Vehicleの略、車体や部品の搬送に使用する無人搬送車
日産グループでは、日産自動車の環境理念である「人とクルマと自然の共生」に協調していくためにさまざまな取り組みを行っています。もちろん日産車体九州においてもこの理念を実現するために環境への配慮を隅々まで行き渡らせています。たとえば、新塗装技術の採用によるCO2排出量の低減、「リサイクル設計ガイドライン」に基づくクルマの設計など。また、ロボットによる自動化が難しいとされる組立工程では、作業者の負担軽減のために助力装置を導入するなど、人に優しい環境をつくりだしています。
日産車体では、開発から生産まで行う完成メーカーとして創業以来培ってきたモノづくりのノウハウの蓄積により、1台ずつ用途の違う特装車の受注生産にも力を入れています。特装はグループ会社の(株)オートワークス京都が担当。開発から生産までの一貫体制でお客さまのニーズにあった特装車をお届けしています。日産車体では、今後も世界中のお客さまの要望に応えながら、この特装車でも生産台数の拡大を目指しています。
従来の一般的な特装車生産は、ベースとなる基準車両のメーカーと特装だけを施すベンダーが別会社であり、完成した車両を分解して新たに特装パーツを組み付けて改造しています。日産車体では、基準車両の開発時点から特装車の開発も並行して行い、基準車と同じ生産ラインで最初から特装部品を組み付けて効率よく生産することができるため、基準車と同じ高い品質を保証できるのです。
「キャラバン」特装車は、基準開発段階での特装要件の織り込みや、量産車と同じラインで架装するインライン特装への取り組みなど、日産車体にしかできない商品力を強化するためのさまざまな取り組みによって生まれた製品です。そこに先代キャラバンのノウハウや、事前調査で得た市場ニーズなど、商品力強化の要件をふんだんに織り込んでいます。特装はグループ会社のオートワークス京都が担い、「日産パラメディック(高規格準拠救急車)」など救急・医療関係車両、消防関係車両、幼稚園バス、公共応急作業車両など多岐にわたっています。
日産車体は、国内拠点でのクルマづくりを行なっていますが、開発、生産準備機能の活躍の舞台はグローバルです。LCVの開発ノウハウ、湘南工場、日産車体九州で培った高度な生産技術によりグローバルに展開する日産自動車の工場での新型車の立上げ、新たな工場、生産ラインの準備・構築をサポートしています。特にLCV分野においては、日産自動車グループの中心的な役割を担っています。
世界では、これから新たな生産拠点が必要になる市場もあります。いかに効率よく新工場を立ち上げ、最新の技術を導入し、競争力のある新型車の生産を開始することができるか。キーとなるのはノウハウを持った人財です。日産車体の開発・生産技術部門の社員は、日産自動車の海外拠点におけるLCVの開発、現地生産のサポートを行っています。
日産車体は得意とするLCVの分野で、世界中のお客さまの多様なニーズにお応えできる「テーラーメード」のクルマづくりに取り組んでいます。市場の求めるクルマの機能や性能は、その土地、文化によって異なります。各国、各地域の多様な個別ニーズを捉え、素早い改良を施し、お届けすることで新たなマーケットを自ら開拓しています。
日産車体は数々の名車を生み出した歴史の中で、多くの開発ノウハウ、生産技術を身に付けてきました。現在、LCV・MPV分野での事業を展開する中で、開発部門の社員は自ら現地に赴き、お客さまの声を聞き、そのニーズをカタチにすることを始めています。たとえば湘南工場で生産しているパトロールピックアップは、その主要マーケットである中東湾岸諸国で求められている、動力性能向上のニーズを開発担当者がスピーディーに設計に反映し、湘南工場ですぐに生産を開始し、お客さまに届けることができました。開発から生産までを担う日産車体ならではの取り組みの成果です。